大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和57年(特わ)3514号 判決 1982年12月27日

裁判所書記官

安井博

本店所在地

東京都小平市学園東町一丁目七番七-二〇一号

東京精密部品株式会社

(右代表者代表取締役金子慶一)

本籍

神奈川県横浜市旭区さちが丘一六一番地

住居

東京都東村山市恩多町二丁目三九番地八八

会社役員

金子慶一

昭和一〇年一一月一一日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  被告人東京精密部品株式会社を罰金一一〇〇万円に、被告人金子慶一を懲役八月にそれぞれ処する。

一  被告人金子慶一に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人東京精密部品株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都小平市学園東町一丁目七番七-二〇一号に本店を置き、精密機器部品の製造販売等を目的とする資本金三、二〇〇万円の株式会社であり、被告人金子慶一(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上除外、架空仕入計上等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年九月一日から同五四年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二七、三四六、五一七円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年一〇月二九日、同都東村山市本町一丁目二〇番二二号所在の所轄東村山税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第一九四八号の1)を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一〇、〇九八、四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五四年九月一日から同五五年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が、三七、三八四、一七六円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年一〇月二九日、前記東村山税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、八七四、五一五円でこれに対する法人税額が五〇〇、七〇〇円である旨の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一四、〇七六、五〇〇円と右申告税額との差額一三、五七五、八〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

第三  昭和五五年九月一日から同五六年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四六、六三八、八七八円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年一〇月二八日、前記東村山税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五、九一三、〇六九円でこれに対する法人税額が一、七二一、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一八、五七五、五〇〇円と右申告税額との差額一六、八五四、一〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書五通

一  斉藤幸子(六通)、秋月雅夫(二通)の収税官史に対する各質問てん末書

一  登記官作成の登記簿謄本

判示各事実とくに別紙(一)ないし(三)の修正損益計算書中の公表金額及び申告所得額につき

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五七年押第一九四八号の1ないし3)

判示各事実とくに右各修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき

一  売上調査書(右各修正損益計算書の勘定科目中の各<1>、以下番号のみを示す。)

一  売上値引戻り高調査書((一)の<2>)

一  商品総仕入高、材料仕入高調査書((一)の<5>)

一  当期製品製造工事原価調査書((二)の<48>)

一  仕入値引戻し高調査書((一)の<6>、(三)の<5>)

一  租税公課調査書((二)の<27>、(三)の<26>)

一  接待交際費、交際接待費調査書((一)の<22>、(二)の<14>、(三)の<15>)

一  交際費損金不算入額((一)の<41>、(二)の<43>、(三)の<41>)

一  支払手数料調査書((一)の<27>、(二)の<25>、(三)の<24>)

一  受取利息、割引料調査書((一)、(二)の各<31>、(三)の<30>)

一  受取配当金調査書((一)、(二)の各<32>)

一  貸金利息調査書((三)の<33>)

一  雑収入調査書((一)、(二)の各<33>、(三)の<32>)

一  貸倒損失調査書((二)、(三)の各<35>)

一  繰越欠損金算入額調査書((一)の<44>、(二)の<45>)

一  事業税認定損調査書((一)の<43>、(三)の各<44>)

一  東村山税務署長作成の証明書((一)の<44>、(二)の<45>)

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社

第一、第二の各事実につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税一六四条一項、一五九条、第三の事実につき、改正後の法人税法一六四条一項、一五九条

(二)  被告人

第一、第二の各事実につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条、裁判時において改正後の法人税法一五九条(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)、第三の事実につき、改正後の法人税法一五九条

二  刑種の選択

被告人につき、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

(一)  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い第三の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告会社は、昭和五〇年九月五日精密機械部品の製造及び組立等を目的として設立された会社であり、その資本金の半分以上を被告人が出資している同族会社であるが、昭和五二年ころからカセットテープレコーダー部品の製造、組立及び販売を始め、昭和五四年ころから爆発的にヒットしたいわゆるウオークマンブームに乗って売上高が急増したが、本件は、取引先が倒産したことから被告会社の将来に危惧の念を抱いた被告人が経理担当者に指示するなどして簿外資産の蓄積を図り、判示のとおり三事業年度で総額四〇〇〇万円余の法人税を免れたというものであり、ほ脱率は一〇〇パーセント(昭和五四年八月期)、九六、四四パーセント(同五五年八月期)、九〇、七三パーセント(同五六年八月期)と極めて高い。本件犯行の態様をみても、被告人は、売上を除外するため取引先に対しわざわざ売上代金を何枚かの約束手形に分割して振出させ、その一部を簿外預金口座を通して取り立て、あるいは実在しない会社名を使用して架空仕入を起したり、取引先である会社のゴム印を作りこれを利用して仕入代金を水増した請求書、領収書を作出するなどして裏資金を捻出し、また被告会社の資金繰りが苦しくなると架空の売上を計上したり、公表の売掛金及び買掛金の残高を実際のものと一致させるため架空の売上値引きや仕入値引きを計上するなどして辻褄を合せていたものであって、巧妙かつ悪質な犯行というべきである。

しかしながら、他方において、本件ほ脱額は同種事案に比してそれほど高額でないこと、被告人は査察段階から本件犯行を認め、当公判廷においても公訴事実をすべて認め再び犯行に及ばない旨誓約しているなど改悛の情を示していること、被告会社において本件につき修正申告をしたうえすでに一部納税を了し、未納分についても完納方を確約していること、本件を契機に新たな顧門税理士をむかえるなどして経理態勢に改善の跡が認められること、本件簿外資産の大部分は処分されずに留保されていたが、これらは正規の会社の資産として公表処理されたこと、その他被告人らには同種の前科、前歴がないこと等被告人らに有利な事情が認められるので、これらの情状をも総合勘案し、主文のとおり量刑した次第である(求刑被告会社につき罰金一三〇〇万円、被告人につき懲役八月)。

よって、主文のとおり判決する。

出席検察官 神宮寿雄

弁護人 貝塚正己

(裁判官 羽渕清司)

別紙(一) 修正損益計算書

東京精密部品株式会社

自 昭和53年9月1日

至 昭和54年8月31日

<省略>

<省略>

修正製造原価報告書

自 昭和53年9月1日

至 昭和54年8月31日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

東京精密部品株式会社

自 昭和54年9月1日

至 昭和55年8月31日

<省略>

<省略>

別紙(三) 修正損益計算書

東京精密部品株式会社

自 昭和55年9月1日

至 昭和56年8月31日

<省略>

<省略>

別紙(四) 税額計算書

東京精密部品株式会社

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例